革の手帖

クロムエクセルという革——オイルをたっぷり抱いた、アメリカ生まれの名品を知る

クロムエクセルという革——オイルをたっぷり抱いた、アメリカ生まれの名品を知る

革が好きな方なら、一度はこの名前に出会ったことがあるかもしれません。クロムエクセル(Chromexcel)。アメリカの名門ブーツや、機械式時計のベルトの説明書きで、ひっそりと、でも誇らしげに書かれている革です。

私たちSpringHikerは普段、栃木レザーやイタリアンレザーを主役に革小物を作っています。それでも、革の勉強のために取り寄せた端切れを工房で触るたび、「ああ、これは別の惑星の革だな」と思わされる。今日はそんな、私たちが素直に敬意を持っている革の話をさせてください。

シカゴの老舗タンナー、ホーウィン社が作る革

クロムエクセルを作っているのは、アメリカ・シカゴのホーウィン社(Horween Leather Company)。1905年創業、今も家族経営を続けている老舗タンナーです。日本でいえば、私たちが惚れ込んでいる栃木レザー社のような「土地の名前と結びついた革の作り手」ですね。

クロムエクセルの何が特別かというと、まず鞣(なめ)しが二段構えなんです。クロム鞣しで芯を作り、その上から植物タンニンで鞣し直す。いわゆるコンビネーション鞣しで、クロムの柔軟さとタンニンの育つ性質、両方のいいとこ取りを狙った作りです。

そして仕上げが「ホットスタッフ」と呼ばれる工程。オイルやワックス、牛脂などを独自に配合したブレンドを、熱を使って革の芯までたっぷり浸み込ませます。ホーウィン社の説明では、89もの工程を経て、仕上がりまで約28日。触った瞬間の、あのしっとりと吸い付くような手触りは、この徹底したオイル仕込みから来ています。

プルアップ——革の中でオイルが動く

クロムエクセル最大の見せ場がプルアップです。革を指でぐっと曲げてみると、曲げたところだけ色がふわっと明るくなる。中のオイルが押されて動き、光の透け方が変わるから起きる現象で、手を離せばゆっくり元の色に戻っていきます。革の中で油分が生きて動いている証拠です。

クロムエクセルを曲げてプルアップを起こした瞬間。曲げた部分の色が明るく変化している

もうひとつ、この革の面白いところ。浅い引っかき傷なら、指の腹でくるくると擦ってやると、周りのオイルが馴染んで目立たなくなるんです。傷を「なかったこと」にするのではなく、革の表情に溶かし込んでいく感じ。ガシガシ使って、傷ごと艶に変えていく——ワークブーツの国で生まれた革らしい、おおらかな性格だと思います。

弱点も含めて、この革の性格

正直に書きます。クロムエクセルは万能ではありません。

オイルをたっぷり含んでいるぶん、革としてはかなり柔らかく、コシは控えめ。かっちりした箱型のものを作ると、型崩れや伸びが出やすい革です。また、含んだ油分が多いので、淡い色の布や革と長く密着させると色移りの心配もあります。明るい色のバッグの内側にクロムエクセルの財布を入れっぱなしにするのは、ちょっと気を使ったほうがいい。

だからこの革が本領を発揮するのは、ブーツ、ベルト、時計バンド、それから「柔らかさがそのまま美点になる」タイプの財布や小物。素材には向き不向きがあって、それを知った上で選ぶのが、革と長く付き合ういちばんの近道です。

栃木レザーと並べてみると

私たちの主役である栃木レザーのヌメ革は、植物タンニンだけでじっくり鞣したフルタンニンの革。おろしたては固く締まっていて、日に焼け、手の脂を吸いながら、何年もかけて飴色に育っていきます。その育て方は「ヌメ革を夏の光で育てる」という記事に詳しく書きました。

クロムエクセルと栃木レザーのヌメ革を木のテーブルに並べた比較

並べてみると、性格の違いがよく分かります。栃木レザーが「時間をかけて色そのものが変わっていく革」だとしたら、クロムエクセルは「最初からオイルの艶を持っていて、傷と一緒に深まっていく革」。どちらが上ということではなく、経年変化の楽しみ方の方向が違うんですね。かっちり育てたい方には栃木レザーのコンパクト財布のような固く締まった革を、傷を気にせずガシガシ使いたい方にはオイルレザーを——と、私たちも相談を受けたらそんなふうにお答えしています。

「こんな革で作ってほしい」も、聞かせてください

種明かしをすると、SpringHikerの常設ラインナップに、いまクロムエクセルの商品はありません。それでもこの記事を書いたのは、革の好みを語り合えるお客様が増えるのが、純粋に嬉しいからです。

私たちは受注生産のフルオーダーで、革の種類からご相談いただくものづくりをしています。「オイルレザーでこういうものを」というお話があれば、仕入れの可否も含めて正直にお答えしますので、オーダーメイドのご案内からお気軽にお声がけください。あなたの好きな革の話を、聞かせていただけるのを楽しみにしています。

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手帖は、つづく。

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