革の手帖

二つ折り財布の薄さはどこで決まるか——ポケットに収まる一つを選ぶために

二つ折り財布の薄さはどこで決まるか——ポケットに収まる一つを選ぶために

ポケットから財布を取り出して、親指で開く。会計を済ませたら、また折りたたんでポケットに戻す。二つ折り財布を使っている方の所作は、たいてい決まっています。鞄を開ける必要も、手のひらから財布がはみ出すこともない。この「身につけたまま完結する」感じが、二つ折りがずっと選ばれてきた理由なのだと思います。

ただ、二つ折りには持ち主を悩ませる問題がひとつあります。厚み。買ったときはすっきりしていたのに、気づけばポケットが膨らんでいる。あれはカードが増えたせいだけではありません。もともと「折る」という構造が、厚みと戦い続ける宿命を背負っています。今日は作り手の目線から、二つ折り財布の薄さがどこで決まるのかをお話しします。

折りたたむ、という古くて手堅い解

財布の型はずいぶん増えましたが、二つ折りは今も定番の座を守っています。とくに男性の使い手が多い型で、スーツの内ポケットにも、デニムの後ろポケットにも収まる寸法が支持されているのでしょう。開けば札入れとカード段が一望でき、閉じれば手のひらに収まる。よくできた解答です。

「キャッシュレスだからもう現金は持たない」とよく言われますが、実感としては、現金を持ち歩く量が大きく変わったという方はそれほど多くありません。カードだけで一日を終えられる日もあれば、小銭を数える日もある。だからこそ二つ折り財布では、小銭をどこに置くかが今も設計の争点になります。財布の型ごとの違いは「革財布の種類と選び方」で一覧にしていますので、あわせてご覧ください。

薄さの正体は「革の厚み × 重なる枚数」

ここが二つ折りのいちばん面白いところです。たとえば1.2mmの革を使ったとして、閉じた財布の背にあたる部分では、外装・内装・カード段・補強が何枚も積み重なります。1.2mmが四枚重なれば約5mm、そこに縫い代と折り目のふくらみが乗る。「薄い革を使えば薄くなる」という単純な話ではなく、どこに何枚重ねたかの足し算で決まります。

だから作り手は漉(す)きます。カード段の隠れる部分、折り目に沿う帯、貼り合わせの縁——見えなくなる場所の革を、部分ごとに薄く削いでいく。丁寧に漉いた財布と、そうでない財布は、閉じたときの背の膨らみでわかります。革の厚みそのものの選び方は革の「厚み」と「硬さ」でも触れました。厚い革は丈夫ですが、二つ折りでは折り目が硬くなり、開き癖がつくまでに時間がかかります。薄すぎれば今度は腰がなく、カードの角で内装が波打つ。この中間を探すのが二つ折りの設計です。

二つ折り財布の折り目まわりの断面——漉いて薄くした革が重なり、コバが磨き上げられた様子のクローズアップ

重なりが集中する背の部分は、コバ(革の切り口)の仕上げが表情を決める場所でもあります。何枚も重なった端を一本の線に見えるまで磨けるかどうか。コバの仕上げを見れば作りがわかる、と私たちがよく言うのは、こういう箇所があるからです。

カード段は「何枚入るか」より「何枚使うか」

カード段は多いほど便利に思えますが、段はひとつ増えるごとに革が一枚増えます。十段の財布は、それだけで背が数ミリ厚くなる。そして実際に毎日使うカードは、数えてみると三枚から五枚という方がほとんどです。

ご相談をいただくとき、私たちはまず「今の財布から、この一週間で出したカードを抜き出してみてください」とお願いしています。残った枚数が、その方に必要な段数です。使わないカードのために厚みを買う必要はありません。

小銭室を、入れるか外すか

二つ折りの薄さを左右する最後の分かれ道が小銭室です。内側に小銭室を設ければ一つで完結しますが、コインの膨らみが折り目に重なって、財布全体が最も厚くなる位置に荷重がかかります。逆に小銭室を持たない二つ折りは驚くほど薄く仕上がり、そのかわり小銭入れを別に持つことになります。

どちらが正しいということはありません。私たちのカードケース&コインケースは後者の考え方から生まれた小物で、カードと小銭を別々の居場所に分けています。一方、一つにまとめたい方には長財布という選択肢もあります。お札を折らない暮らしについては先日の記事で書きました。

こげ茶の二つ折り財布を閉じた状態と、傍らに並べた無地のカード数枚

私たちにまだ二つ折りがない理由

正直に書きます。現在のSpringHikerのラインナップに、二つ折り財布はありません。L字ファスナー、ラウンドファスナー、コンパクトなジップ財布——ファスナーで閉じる型ばかりです。中身が落ちない安心感があること、そして縫いとコバの見せ場を作りやすいことが、その理由でした。

けれど最近、「二つ折りは作らないんですか」とお尋ねいただく機会が増えました。もし作るなら、薄さを最優先に据えたいと考えています。漉きで背の膨らみを抑え、カード段は欲張らず、小銭は別立てにする。栃木レザーの厚みのある表情を活かしながら、ポケットに入れたことを忘れる薄さに持っていけるか。いま工房で考えているのは、そのあたりです。

受注生産の工房ですから、こうしたご相談そのものが私たちの設計図になります。「こういう二つ折りが欲しかった」という形があれば、ぜひオーダーメイドのご相談から聞かせてください。受注生産という作り方についてはこちらの記事に書いています。あなたのポケットの中の一つが、次に作る財布の出発点になるかもしれません。

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手帖は、つづく。

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