革の手帖

防水スプレーで革を守る——種類の違いと、職人が教える正しい使い方

工房の作業机に並んだ革小物と防水スプレー——梅雨前のメンテナンス風景

梅雨が近づくと、お客様からよく訊かれることがあります。「防水スプレーって、革にかけても大丈夫ですか?」——私たちの答えは、「革とスプレーの種類によります」。

雨に弱い革に何もせずに梅雨を迎えるのは、たしかに心配です。けれど、間違ったスプレーを選んだり、塗り方を誤ると、革が白く曇ったり、風合いが大きく変わってしまうことがあります。スプレー1本で台無しにしてしまうのは、本当にもったいない。

今日は作り手の立場から、防水スプレーの選び方と、革を傷めない使い方を順を追ってお話しします。

作業机に並んだ革小物と防水スプレー

なぜ革に防水スプレーが必要なのか

革は植物や動物と同じ天然素材です。生きていた頃の繊維構造を残しているからこそ、しっとりとした手触りや、独特の経年変化が生まれます。ただし、その繊維は水を吸い込みやすいという面も持っています。

強い雨に当たると、革の表面に水滴がしみ込み、乾いたあとに輪ジミや色ムラが残ることがあります。日常的なオイルケアでも多少の撥水効果はありますが、ザッと降る雨にはどうしても太刀打ちできません。

防水スプレーは、その「もしも」に備えるための小さな保険のような存在です。完全に水を弾くわけではありませんが、染み込むまでの時間を稼いでくれる。雨に気づいてカバンにしまうまでの数十秒が、革を守ってくれます。

フッ素系とシリコン系——何が違うのか

市販されている防水スプレーは、大きく分けてフッ素系とシリコン系の2種類があります。革小物に使うなら、迷わずフッ素系を選んでください。

フッ素系は、革の繊維一本一本に薄い膜をつくり、水と油を同時に弾きます。最大の特長は通気性を残すこと。革が呼吸できる状態を保ったまま撥水するので、本来の風合いを損ないにくい設計です。コロニルの「カーボンプロ」、サフィールの「スーパーインビジブル」などが代表的です。

シリコン系は強力な防水力を持ちますが、革の表面を完全に覆ってしまいます。スニーカーやアウトドアブーツには向いていますが、繊細な革小物には向きません。革が「呼吸」できなくなり、長期的に見ると硬化や劣化の原因になることがあります。

違いを一言で言うなら、フッ素系は「革を守りつつ呼吸させる」、シリコン系は「水を完全に遮断する」。革小物に求められるのは前者です。

革の表面で水滴が玉のように弾かれている様子

防水スプレーを使ってはいけない革

フッ素系であっても、すべての革に使えるわけではありません。次の革は特に注意が必要です。

  • ヌメ革:表面に塗装をほとんど施していない、革本来の表情を残したタイプ。スプレーが斑になりやすく、思わぬシミの原因になります
  • コードバン:水分・油分にとてもデリケートな革。スプレーによって独特の艶や透明感が損なわれることがあります
  • スエード・ヌバック:起毛系専用のスプレーを選んでください。一般的な革用スプレーは毛並みを潰してしまいます

見分け方の目安は、手に取った時の「しっとり感」。指に吸い付くようにしっとりしている革は、スプレーがシミになりやすい傾向があります。心配なときは、必ず目立たない部分(カバンの内側、財布の角など)で試してから全体に使ってください。

SpringHikerの栃木レザー製品はオイルをたっぷり含ませたタイプが中心なので、フッ素系スプレーは控えめに、薄く一度塗りで十分です。

正しい塗り方——失敗を防ぐ5つの手順

スプレーの選び方以上に大切なのが、塗り方です。以下の手順で行えば、ほとんどの失敗は防げます。

  1. 屋外、または換気のよい場所で行う。スプレーの粒子は吸い込むと健康に害があります。室内での使用は厳禁です
  2. 革表面のホコリをブラシで落とす。汚れの上にスプレーすると、汚れごと膜に閉じ込めてしまいます
  3. 20〜30cm離して、薄く均一に吹く。近すぎると一点に液剤が集中してシミになります。「霧の中をくぐらせる」感覚で
  4. 1度に厚塗りせず、薄く2回に分ける。1回目を吹いたら30分ほど乾かし、もう一度薄く重ねます
  5. 完全に乾くまで半日は触らない。直射日光・ストーブの熱・ドライヤーは厳禁。革が縮んだり硬化する原因になります

タイミングとしては、梅雨入りの2週間ほど前に1回、シーズン中に1回が目安です。スプレーの効果はおおむね1〜2ヶ月持続します。雨が続く季節は、お気に入りの革小物だけでも月に一度かけ直してあげるといいでしょう。

20〜30cmの距離から防水スプレーを吹きかける手元

私たちが普段おすすめしているケア

SpringHikerの工房では、毎年梅雨入り前にすべての展示品にフッ素系スプレーをかけています。栃木レザー製品にはコロニルの「カーボンプロ」を、イタリアンレザー(ブッテーロなど)には少量を目立たない部分でテストしてから使うようにしています。

イタリアンレザーはオイル分が多いため、スプレー前にレザークロスで余分な油分を軽く拭き取ると、ムラなく仕上がります。また、名刺入れや財布など室内で使うことが多い革小物には、必ずしもスプレーは必要ありません。雨の日に持ち出すカバンや、毎日外で使うキーケースに集中して使うのが現実的です。

そして、これが一番大切なこと——防水スプレーはあくまで「お守り」です。革のお手入れの基本は、清潔に保つことと、月に一度のオイル補給。土台のケアがあってこそ、スプレーが活きてきます。あわせて革小物の正しいお手入れ方法もご覧ください。

雨の季節も、革と一緒に

雨予報を見て、お気に入りの革を持ち出すのをためらう。それはちょっと寂しいことだと思います。正しく備えれば、革は梅雨の季節も穏やかに一緒に過ごせる相棒になってくれます。

ふいの雨にも慌てない、その小さな安心感が、革小物を「特別な日のもの」から「毎日のもの」へと変えてくれる気がしています。

SpringHikerでは、栃木レザーやイタリアンレザーを使った、雨の季節にも安心して使える革小物を一つひとつ手作りしています。商品一覧からぜひご覧ください。

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手帖は、つづく。

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