ラウンドファスナー財布のファスナーが壊れたら——傷みやすい場所と長持ちのコツ、交換のこと
ぐるりと三辺を回るファスナーを引くと、財布が大きく口を開けて、お札もカードも小銭も一度に見渡せる。ラウンドファスナーの財布の気持ちよさは、この開いた瞬間にあると私たちは思っています。
ただ、そのファスナーは、財布のなかで傷みやすい場所でもあります。通販サイトに寄せられたラウンドファスナーの長財布のレビューを読み込んでみたところ、不満としていちばん多く挙がっていたのはファスナーでした。「壊れた」という話も、その多くがファスナーのことです。ふだんはあまり気に留めない部品だからこそ、一度、作り手の目でじっくり眺めてみたいと思います。
ファスナーを分解してみると
ひと口にファスナーと言っても、いくつもの部品でできています。噛み合う一つひとつの歯が「務歯(むし)」、それを並べて留めている布の帯が「テープ」。務歯を噛み合わせたり離したりしながら走る金具が「スライダー」で、指でつまむところが「引き手」です。両端には、スライダーが抜け落ちないための小さな「止め」が付いています。
写真は、2023 年に私たちが作ったラウンドファスナー長財布です。左端で、金色の務歯が角を回り込んでいくのが見えるでしょうか。ラウンドファスナーは、まっすぐな辺を走るだけでなく、角を二つ回ります。カーブの外側では務歯どうしの間がわずかに開き、スライダーは向きを変えながら進んでいく。引っかかりが起きやすいのも、この角です。ファスナーが三辺を回る作りは、いまお作りしているコンパクト財布も同じです。
傷みやすいのは、角とスライダー
ファスナーの不具合は、どこからともなく起きるわけではありません。たとえばスライダー。毎日の開け閉めで務歯の上を往復するうちに、内側が少しずつすり減っていきます。噛み合わせが甘くなると、閉めたはずの後ろからするすると開いてしまう。閉めたあと、財布を軽く押しただけで務歯の列がぷつりと割れるようになったら、スライダーの疲れのサインです。
負担を大きくするのが、詰め込みすぎです。中身でふくらんだ財布を無理に閉めると、務歯は外へ押し広げられたまま噛み合わされ、スライダーにも余計な力がかかります。ふくらみといっしょに角のカーブもきつくなるので、角はなおさらです。
開くと、内側の小銭入れにももう一本ファスナーがあります。外まわりは黒いテープ、小銭入れはベージュのテープ。小銭は重いうえに出し入れの回数も多いので、こちらのファスナーも案外よく働いています。
長持ちさせる、ちょっとした手つき
特別な道具はいりません。よく効くのは、中身を少し控えめにしておくこと。レシートやポイントカードがたまってきたら、ときどき整理してあげてください。閉めるときはもう片方の手で財布を軽く押さえ、角ではスライダーをゆっくり回すように引きます。途中で引っかかったら力まかせに引かず、少し戻してから進め直してください。
務歯のすき間には、ほこりや糸くずが思いのほかたまります。乾いた柔らかいブラシや布でときどき払っておくだけでも、滑りはずいぶん変わります。それでも動きが重いときは、ろうそくのような無色のロウを、務歯の頭にだけ薄くなぞってください。数回開け閉めしてなじませ、余分は乾いた布で拭き取ります。スプレー式の潤滑剤は、革にかかるとシミになることがあるので避けたほうが安心です。スライダーを工具で締めるような応急処置も、かえって務歯を傷めることがあります。気になる症状が出てきたら、無理をせずご相談ください。
ファスナーが壊れても、交換して使い続けられます
ラウンドファスナーの財布では、ファスナーのテープが外装の革の縁に縫い込まれています。交換は、その縫い目をぐるりとほどき、新しいファスナーを据えて、もう一度縫い直す、手間のかかるお直しです。
それでも、作った側には作ったときの組み方が分かっています。どこからほどき、どう組み直すか、見当をつけてから手を入れられる。私たちがお作りした財布は、ファスナーの交換も含めて、できる限り直します。お写真を何枚か添えてお問い合わせからご相談ください。状態を拝見し、ご相談のうえで、直し方と費用をご案内します。革そのものの傷みが進んでいると、直しても長くは使えないことがあります。そのときは正直にお伝えします。同じ部品が手に入らない場合は、近いものをご相談して選びます。留め具の交換をした財布のお話は、直して、また使うの記事で紹介しています。
写真の 2023 年の一本とは別に、いま、新しいラウンドファスナー長財布の準備を進めています。お札を折らずに持つ長財布という型を選ぶ理由は、長財布という選択で書きました。毎日開け閉めするファスナーは、いつか必ず疲れてきます。そのときに手放すのではなく、作り手のもとへ戻して、また使い続けていただけたらうれしいです。
手帖は、つづく。