直して、また使う——革小物の修理・お直しという選択
先日、数年前にお作りした革の財布が、工房に戻ってきました。コインコンチョ(硬貨を留め具にあしらった、あの金具です)のメス側が壊れて、パチンと留まらなくなってしまったとのことでした。
けれど、届いた財布を手に取って、思わず頬がゆるみました。ヌメ革がきれいな飴色に育ち、角もいい具合にこなれている。毎日、大切に使ってくださったのが、手触りから伝わってくるのです。留め具ひとつのことで手放すなんて、もったいない。「もちろん直せますよ」と、すぐにお返事しました。
革小物は、直して使えます。今日は、その「お直し」という選択について、作り手の側からお話しします。
革は「直せる」素材です
革小物が、布や樹脂の量産品と少し違うところ。それは、手で縫い、パーツで組み上げているという点です。糸で綴じてあるものは、糸をほどけば開けます。金具で留めてあるものは、金具を替えられます。つまり、壊れた一箇所だけを、後から手当てできるのです。
今回の財布も、悪いのはメス側のホック(スナップ)ひとつでした。表側のコインコンチョはそのまま活かせます。ただ、その留め具が財布の一番下に縫い込まれていたので、まずは糸を丁寧にほどき、金具を新しいものに交換して、もう一度きちんと縫い直す。手間はかかりますが、やることは、はっきりしています。仕上げに端(コバ)をもう一度整えれば、また何年も使っていただけます。
受注生産だからこそ、直せる
私たちが一点ずつ手でお作りしているのには、こんな利点もあります。どこをどう縫い、どんな金具を使ったかを、作り手自身が分かっている。構造が分かるから、迷わずほどいて、直せる。同じ革、同じ糸、近い金具を選び直すこともできます。
「すぐ手に入る」量産品は便利ですが、いざ壊れたとき、どこで直せばいいのか分からないことも少なくありません。受注生産は、手に入るまでに少し時間がかかるぶん、作ったあとの「その先」まで一緒に歩けます。この考え方については、受注生産という選び方でも詳しくお話ししています。
どんな「お直し」ができるのか
ご相談の多いものを、いくつか挙げてみます。
- ホック・スナップの交換(今回のような留め具の不具合)
- 擦れてきたコバの再仕上げ
- ほつれてきたステッチの縫い直し
- 金具の追加(ウォレットチェーン用の金具や、あとからの名入れ)
- 小さな傷や乾きのケア(オイルの入れ直しで見違えることもあります)
できること、難しいことは、状態によって変わります。まずはお写真を何枚か送っていただければ、直せるかどうか、どんな方法がいいかをご案内します。
「育てる」と「直す」は、地続き
毎日ポケットに入れて使えば、革は手の脂と時間を吸って、深い飴色に育ちます。その同じ時間のなかで、金具はゆるみ、糸は少しずつ擦れていく。育てることと直すことは、長く付き合っていれば、どちらも自然に訪れます。
だから、壊れたら終わり、ではありません。直して、また育てる。その繰り返しのなかで、革小物は少しずつ「自分のもの」になっていきます。使い捨てないというと少し肩肘を張って聞こえますが、私たちにとっては、もっと素朴な気持ちです。愛着のある道具を、長く使いたい。ただ、それだけのことなのです。
「そろそろ」のサインが出たら
お手元の革小物に、留め具のゆるみや糸のほつれ、そろそろというサインが出ていたら、捨てる前に一度、お写真を添えてお直しのご相談をお寄せください。直せるものは、できるだけ直します。
そして、これから長く付き合う一点を新しく、という方には、栃木レザーのコンパクト財布のような、育てがいのある革でお作りします。何年か先、もし直しが必要になったら、そのときはまた、私たちが手当てします。長いお付き合いを、どうぞよろしくお願いいたします。
手帖は、つづく。