革の手帖

オイルケアの頻度と量——やりすぎは禁物、革が求める「ちょうどいい」を知る

オイルケアの頻度と量——やりすぎは禁物、革が求める「ちょうどいい」を知る

革小物を手に入れたばかりの頃、嬉しくてつい何度もクリームを塗ってしまった——そんな経験はないでしょうか。

実は、私たちSpringHikerの工房にも「革がベタベタするんです」「なんだか表面がくすんできて…」というご相談が届くことがあります。お話を聞いてみると、ほとんどの場合、原因は同じ。オイルやクリームの塗りすぎです。

革のお手入れは「やらなすぎ」より「やりすぎ」のほうが、実はずっと厄介。今回は、革が本当に求めているケアの頻度と量について、制作者の目線からお話しします。

革小物のオイルケア用品——クリームとブラシと柔らかい布

なぜ「塗りすぎ」が革を傷めるのか

革は、もともと動物の皮膚です。人間の肌と同じように、油分を吸収する力には限界があります。

革が吸いきれなかったオイルやクリームは、繊維の表面に残ります。すると何が起きるか。まず、ベタつき。ポケットやカバンの中で他のものにオイルが移ってしまいます。次に、カビ。余分な油分は湿気を呼び、梅雨どきには白いカビの温床になります。そして最も怖いのが、革の「コシ」が失われること。過剰な油分で繊維がゆるみ、本来のハリや弾力がなくなってしまうのです。

栃木レザーのようなタンニンなめしの革は、もともと適度な油分を含んだ状態で仕上がっています。つまり、新品の時点でバランスが整っている。そこにさらにオイルを足すと、バランスが崩れてしまうわけです。

革種別——ケアの頻度の目安

「どのくらいの頻度でケアすればいいですか?」と聞かれたら、私たちはこうお答えしています。革の種類と使い方で変わります、と。

栃木レザー(タンニンなめし・ヌメ革系)
もっとも「やりすぎ注意」な革です。タンニンなめしの革は、日々手で触れるだけで、手の油分が自然と革に移っていきます。特にお財布キーカバーのように毎日触れるものは、クリームでのケアは2〜3ヶ月に一度で十分。それ以外の季節は、柔らかい布で乾拭きするだけで大丈夫です。

イタリアンレザー(ブッテーロ・ミネルバボックス等)
イタリアンレザーもオイルを豊富に含んでいるものが多く、頻繁なケアは不要です。ただ、ブッテーロのような硬めの革は乾燥しやすい傾向があるので、表面に白っぽいカサつきが見えたらケアの合図。目安としては1〜2ヶ月に一度です。

クロムなめし革
タンニンなめしに比べると柔軟性が高く、乾燥しにくい特徴があります。基本的には3〜4ヶ月に一度、あるいは半年に一度でも問題ありません。

栃木レザーの財布に薄くクリームを塗布する手元

「ちょうどいい量」の見極め方

頻度と同じくらい大切なのが、一度に塗る量です。

私たちが工房でよく使う表現があります。「米粒ひとつ分」。クリームを指にとるとき、米粒ひとつ分くらいを目安にしてください。それを指先で薄くのばしながら、革の表面に円を描くように塗っていきます。

塗った直後は少しツヤが出ますが、5〜10分ほど置いてから、きれいな布で軽く拭き上げてください。このとき、布にクリームがほとんど付かなければ、革がちゃんと吸収した証拠。逆に、布にべったり付くようなら、それは塗りすぎです。

手順をまとめると、こうなります。

  1. ブラッシング——柔らかい馬毛ブラシでホコリを落とす
  2. クリーム塗布——米粒ひとつ分を指で薄くのばす
  3. 浸透を待つ——5〜10分、自然に吸収させる
  4. 拭き上げ——きれいな布(古いTシャツの切れ端でOK)で余分を取る

これだけです。工程自体はとてもシンプル。大事なのは「足りないかな?」と思うくらいで止めること。革は自分で答えを教えてくれます。

こんなときは塗らないで

ケアのタイミングにも、注意が必要です。以下のような場面では、オイルやクリームを塗るのを控えてください。

革が濡れているとき
雨に降られたり、飲み物をこぼしたりした直後は、まず水分を吸い取ることが先決です。乾ききっていない革にオイルを塗ると、水分と油分が混ざり合ってシミの原因になります。風通しのよい日陰で完全に乾かしてから、クリームを塗ってください。水濡れ後のケアについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

購入直後
新品の革製品は、制作の最終工程でしっかり仕上げ処理がされています。SpringHikerの製品も、出荷前にコバの処理や表面の仕上げを丁寧に行っています。買ったばかりの状態がベストコンディション。最初の1〜2ヶ月は、乾拭きだけで十分です。

真夏の高温多湿な時期
気温と湿度が高い時期は、革の中の油分が表面ににじみ出やすくなります。この上からさらにクリームを塗ると過剰になりがち。夏場は乾拭き中心で、クリームケアは秋口まで待つのがおすすめです。

経年変化で飴色に育った栃木レザーのペンケースと革小物

おすすめのケア用品

最後に、私たちが実際に使っているケア用品をいくつかご紹介します。

コロニル 1909 シュプリームクリームデラックス
天然オイルとシダーウッドの香りが心地よい、万能タイプのクリーム。栃木レザーにもイタリアンレザーにもよく馴染みます。革の色を選ばない無色タイプがおすすめです。

ラナパー レザートリートメント
蜜蝋(ビーズワックス)ベースで、初めてのケアにも使いやすい一品。塗りすぎても比較的リカバリーしやすいので、初心者の方に特におすすめしています。

馬毛ブラシ
クリームを塗る前のブラッシングに。毛が柔らかいので革を傷つけず、細かいホコリもしっかり掻き出してくれます。ケア用品の中で一番使用頻度が高いのは、実はブラシかもしれません。

どのクリームを使うにしても、鉄則はひとつ。少量を、薄く。これに尽きます。

革は「手をかけすぎない」ほうが美しく育つ

革の経年変化——いわゆるエイジングは、日々の使用の中で自然と進んでいくものです。手の温もり、ポケットの中の摩擦、日光のわずかな紫外線。そうした小さな積み重ねが、世界にひとつだけの色艶を生み出していきます。

クリームやオイルは、その変化を助けるものであって、主役ではありません。主役はあくまで、毎日の「使う」という行為そのもの。だからこそ、ペンケースも、AirPodsケースも、どんどん普段使いしてください。それが一番のお手入れです。

エイジングの楽しみ方についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひご覧ください。

革との暮らしを、気負わず、ゆったりと。何かお手入れで迷ったことがあれば、いつでもお問い合わせください。

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手帖は、つづく。

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