コードバンとは?「革のダイヤモンド」と呼ばれる馬革の正体

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革の世界には「ダイヤモンド」と呼ばれる素材があります。コードバン——馬のお尻の皮から取れる、ごくわずかな層だけで作られる革です。

私たちが普段扱う栃木レザーやイタリアンレザーとは、手に取った瞬間にわかるほど質感が違います。独特の透明感と、吸い込まれるような光沢。初めてコードバンに触れたとき、「これは別の素材だ」と感じたことを今でもはっきり覚えています。

今日は、このコードバンという革の正体を、少し深く掘り下げてみたいと思います。

コードバンの美しい光沢:深みのあるバーガンディ色の表面

馬の「お尻」だけから取れる、たった1mmの層

コードバンの最大の特徴は、その採取方法の特殊さにあります。牛革が皮の表面(銀面)をそのまま使うのに対して、コードバンは馬の臀部(お尻)の皮の内部に埋まっている「コードバン層」と呼ばれる繊維層だけを削り出して使います。

この層の厚さは、わずか1〜2mm程度。皮の表面からは見えない場所にあるため、職人が手作業で少しずつ表面を削り、コードバン層を「掘り当てる」ようにして取り出します。この工程を「グレージング」と呼びますが、削りすぎれば層を貫通してしまい、足りなければ不純な部分が残る。まさに宝石を磨き出すような作業なんです。

しかも、すべての馬からコードバン層が取れるわけではありません。食肉用に飼育されたヨーロッパの農耕馬から取れる皮のうち、コードバン層が十分な厚みを持つものは限られています。一頭の馬から取れるコードバンは、財布がせいぜい2〜3個分。この希少性こそが「革のダイヤモンド」と呼ばれる理由の一つです。

牛革とはまるで違う——コードバンの繊維構造

コードバンを手に取ると、牛革とのいちばんの違いは「表面の質感」だと気づきます。牛革には毛穴の跡(銀面模様)がありますが、コードバンにはそれがほとんどありません。つるりとした、陶器のような滑らかさ。

これは繊維の構造が根本的に異なるからです。牛革は繊維が網目状に絡み合っていますが、コードバン層の繊維は一方向にぎゅっと並んでいます。ちょうど、横に寝かせた竹ひごを何百本も束ねたようなイメージです。

この繊維構造が、コードバン特有のしなやかさとコシの両立を生みます。曲げてもシワが入りにくく、戻す力が強い。財布を開閉するたびに感じる、あのしっとりとした弾力は、繊維が一方向に揃っているからこそ生まれるものです。

コードバンと牛革の繊維構造の違い:緻密で均一なコードバンの断面

あの光沢は、なぜ生まれるのか

コードバンを語る上で外せないのが、あの独特の光沢です。「透明感のある輝き」とよく表現されますが、これは表面にコーティングを施しているわけではありません。

先ほど触れた繊維構造を思い出してください。一方向に揃った繊維を、ガラス棒や瑪瑙(めのう)の棒で丹念に押し潰していくと、繊維の表面が平滑になり、光を均一に反射するようになります。この工程も「グレージング」と呼ばれ、コードバンの仕上げにおいて最も重要な工程の一つです。

つまり、コードバンの光沢は繊維そのものが光っている状態。だから使い込むほどに艶が増し、深みが出てくるんです。表面のコーティングが剥がれて曇る、ということが原理的に起こりにくい。これが牛革の艶との決定的な違いです。

コードバンの経年変化——「育てる」というより「磨かれていく」

栃木レザーのようなタンニンなめしの牛革は、油分や紫外線によって「色が深まっていく」タイプの経年変化をします。一方、コードバンの変化はちょっと趣が異なります。

コードバンは使い込むことで、表面の繊維がさらに寝て整列し、光沢がどんどん増していきます。色の変化というよりも、輝きの質が変わっていく感覚。新品のときはやや曇りがかった光り方をしていたものが、半年、一年と使ううちに、まるで鏡のような深い艶を帯びてきます。

私たちが「育てる革」と呼ぶ栃木レザーに対して、コードバンは「磨かれていく革」と表現したほうがしっくりきます。持ち主の手で日々磨かれ、その人だけの光沢を纏っていく。それがコードバンの経年変化の醍醐味です。

コードバンを作る職人たち——世界にわずかなタンナー

コードバンのなめしは、一般的な牛革のなめしとは比べものにならないほど手間がかかります。原皮の調達から仕上げまで、半年から10ヶ月もの時間を要することも珍しくありません。

世界でコードバンを専門的に生産できるタンナーはごくわずか。アメリカのホーウィン社(シカゴ、1905年創業)と、日本の新喜皮革(兵庫県姫路市、1951年創業)が二大タンナーとして知られています。

ホーウィン社のシェルコードバンは、オイルをたっぷり含んだしっとりとした質感が特徴。新喜皮革のコードバンは、よりきめ細かく、端正な仕上がりが魅力です。同じコードバンでも、タンナーによってこれほど個性が違うのは面白いですね。

ちなみに、コードバンの「コードバン」という名前の由来には諸説ありますが、スペインのコルドバ地方で馬革の加工が盛んだったことに由来するという説が有力です。

コードバンの弱点——知っておきたいこと

ここまでコードバンの魅力を語ってきましたが、正直にお伝えしなければならないこともあります。

まず、水に弱い。コードバンは水に濡れると、繊維が膨張して表面にブツブツとした「水ぶくれ」ができることがあります。乾けば目立たなくなることも多いですが、雨の日には注意が必要です。

次に、傷がつきやすい。あの美しい光沢は繊維の整列によるものなので、硬いものが当たると繊維が乱れ、白っぽい擦り傷になります。ただし、これは指で擦ったり、クリームを塗ったりすることで目立たなくなることが多い。コードバン愛好家はこれを「水ぶくれも傷も、付き合い方の一つ」と楽しんでいる方が多いですね。

そして価格。原皮の希少性、なめしの手間、歩留まりの低さを考えれば当然ですが、コードバンの革小物は同サイズの牛革製品の2〜5倍の価格になることもあります。

手に取ってみてほしい——革の「格」を感じる瞬間

コードバンは、写真や文章だけでは伝えきれない革です。あの手に吸い付くような質感、光の角度で表情が変わる奥行きのある光沢、曲げたときの独特のしなやかさ——五感で触れて初めて、「革のダイヤモンド」の意味がわかります。

SpringHikerでは現在、栃木レザーイタリアンレザーを中心にものづくりをしていますが、コードバンの世界もいつかお届けしたいと考えています。革の種類によってこんなにも個性が違うということを知ると、革小物選びがもっと楽しくなるはずです。

革の素材についてもっと知りたい方は、「栃木レザーとは?」や「イタリアンレザーの世界」もあわせてご覧ください。素材を知ることは、革との付き合い方を深める第一歩です。

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