本革と合成皮革(PUレザー)の見分け方——職人が教える5つのチェックポイント
「本革」と書いてあったから買ったのに、届いたものを触ってみると、どうも様子がおかしい——。そんなご相談を、ときどき頂戴します。
近年の合成皮革(PUレザー、フェイクレザー)は本当によくできていて、写真や短い動画だけでは判別がつかないほどです。実物を手にしても、慣れていなければ「これは本革ですよ」と言われれば、そう信じてしまう。だからこそ、本物の革を選びたい方には、職人が日々の仕事で当たり前に使っている「見極めの所作」を知っておいていただきたいのです。
この記事では、SpringHiker の工房で実際に革を選ぶときに私たちが見ている五つのポイントを、順番にお伝えします。難しい道具は要りません。指先と鼻と目さえあれば、誰でも数十秒で判別できる、そんなチェック方法ばかりです。
一. 切り口を見る——「繊維」があるかどうか
最も確実で、最も裏切らないのが「断面」を見ることです。革小物の場合、コバ(端の処理部分)か、内側の縫い代の裏地が見える箇所を観察してください。
本革の断面には、必ず繊維が見えます。動物の皮を薄く漉いて作るのが革ですから、当然、繊維がぎっしり詰まった構造をしている。光に透かすと、無数の細い繊維が縦横に走っているのが見えるはずです。タンニンなめしの革なら飴色の地に薄茶の繊維、クロムなめしなら少し青みがかった芯にうっすらと白い繊維、というふうに。
一方、合成皮革は布(基布)にウレタン樹脂をコーティングしたものです。断面を見ると、布の織り目と均一なウレタン層の二層構造がはっきりと分かれて見えます。繊維のような毛羽立ちはなく、ナイフで切ったような鋭い切り口になっていることが多い。
店頭で買い物をするとき、可能なら革小物のコバ(端の部分)を斜め下から覗き込んでみてください。本革なら、コバ磨きで滑らかに仕上げていても、よく見れば繊維の名残が残っています。合皮には、その「名残」がありません。
二. 匂いを嗅ぐ——「革の香り」と「化学臭」
これは、工房で働いていると一瞬で分かるポイントです。本革には、独特の「革の匂い」があります。
タンニンなめし(植物タンニンで処理した革)は、樹皮や草木を煮出したような、少し甘くて、少し土っぽい香りがします。クロムなめしの革はもう少し穏やかで、動物性のかすかな脂の香りが残る程度。ブライドルレザーのようにロウを染み込ませた革なら、蜜蝋のような甘い香りもふっと立ち上がります。
対して合成皮革は、新品のうちは「ビニール製品の匂い」がします。プラスチック製のおもちゃや、安価なスマホケースを開けたときの、あの石油由来の匂いです。使い込むうちに匂いは抜けていきますが、本革のように香りが変化していくことはありません。本革は時間と共に皮脂を吸い、空気に触れ、香りが少しずつ落ち着いていく。合皮は最初に強い化学臭があり、それが消えたら無臭になる——この違いです。
もし買う前に手元で確認できるなら、革の表面に鼻を近づけて、二、三秒、ゆっくりと匂いを取り込んでみてください。「あ、革だな」と思える香りがすれば本物。プラスチックを感じたら、合皮の可能性が高いです。
三. 触れて確かめる——温度感としっとり感
指先で触れたときの感触も、慣れれば一発で分かります。
本革は触れた瞬間にひんやりとし、すぐ手の温度を吸って馴染んでいく性質があります。革の内部に水分や油分が含まれているため、熱の通り方が独特なのです。しばらく手のひらに乗せていると、革の方からも温度を返してくる——そんな感覚があります。
合成皮革は、最初に触れたときの温度感は本革と似ていますが、しばらく握っていると表面の温度がずっと低いまま、あるいは均一に上がっていくのが特徴です。樹脂は熱伝導が一定で、革のように「呼吸している」感じはしません。
また、本革の表面には「しっとり感」があります。これはオイル分が革の中から自然に滲み出ているためで、指で軽く撫でると、わずかに引っかかるような、しっとりとした抵抗を感じます。合皮の表面はもっとサラっとしていて、ツルツルしているか、逆にゴム的に粘ついているかのどちらか。「指に吸いつくような、しっとりとした抵抗」——これがあれば本革です。
四. 銀面の表情——毛穴とシボの「不規則さ」
革の表面(銀面と呼ばれる、ツルツルした方の面)を、明るい場所でじっと観察してみてください。
本革には毛穴があります。元は動物の皮膚ですから、ヒゲや体毛が生えていた跡が必ず残っている。これを「毛穴模様」と呼びます。よく見ると、毛穴は均等に並んではいません。密度にムラがあったり、流れがあったり、傷の跡があったり、血管が浮いていた跡があったり——一つとして同じ場所がないのが本革の銀面です。
シボ(しわのような凹凸)も同様で、本革のシボは「ランダム」です。プレス機で型押しされた革(型押しレザー)であっても、よく見れば下地の革の毛穴が透けて見えるはずです。
合成皮革のシボは、機械で印刷したパターンですから一定の周期で繰り返されます。10cm × 10cm の範囲を見て、同じ模様が二回、三回と繰り返し現れたら、それは合皮である可能性が極めて高い。スマホの拡大鏡機能(カメラを近づけてピンチアウト)を使うと、繰り返しのパターンが見えてくることもあります。
当工房で扱う栃木レザーのヌメ革などは、特に毛穴がはっきり見えるタイプの革です。手に取って明るい場所でご覧いただくと、まるで革の地図のように、一枚一枚違う表情をしていることがお分かりいただけます。
五. 経年変化の兆候——傷と色の「育ち方」
これは「すでに使われている革」を見極めるときの方法です。中古品や、店頭で長く展示されている商品を判断する際に使えます。
本革は使ううちに色が深く濃く育っていきます。光と皮脂、空気に触れることで、革の中のタンニンや染料が変化し、最初の頃よりも飴色に、艶やかになっていく。これがいわゆる「経年変化(エイジング)」です。とくに使う人の手が触れる部分——財布の角、ペンケースの握り、AirPodsケースの留め具まわり——は、他の場所より色が深まりやすい。
合成皮革は、経年「変化」ではなく、経年「劣化」が起きます。ある日、表面のウレタン層がひび割れたり、ベタついたり、ボロボロと剥がれ落ちたりする——これは合皮の宿命です。三〜五年が寿命、と言われることが多く、十年以上美しさを保ち続けることは構造上できません。
傷の入り方も決定的に違います。本革に爪を立てると、繊維が圧縮されて白っぽい筋がつきますが、指で撫でると元に戻ったり、馴染んで味になったりします。合皮の傷は、表面のウレタン層が裂けたり剥がれたりするので、元には戻りません。一度ついた傷は、そのまま劣化の起点になります。
本物の革を、五感で選ぶということ
合成皮革は決して「悪い素材」ではありません。価格を抑えられ、軽く、水にも強い。用途によっては本革より優れた選択肢になります。問題は「本革」と謳って実は合皮、というケースや、見た目の似た合皮を「本革と同じように長く使えます」と説明してしまうケースです。
本革にしかない魅力——指に吸いつくしっとり感、嗅ぐたびに変わる香り、一枚一枚違う毛穴の表情、年月をかけて深まる色——これらは、ウレタンには絶対に再現できないものです。
SpringHiker では、栃木レザー、イタリアン・ブッテーロ、ブライドルレザーなど、信頼するタンナーから仕入れた本革のみを使ってお作りしています。ネット販売である以上、画面越しでは私たちの革の質感をお伝えしきれないことが、いつも歯がゆい。だからこそ、お手元に届いたときに「ああ、本物だ」と感じていただける革を、ひとつひとつ選んでいます。
商品ページの写真を見ていただくときには、ぜひ「コバの繊維」「毛穴の不規則さ」を意識して観察してみてください。全商品ページでは、革の表情がよく分かる写真を心がけています。お探しの形や色がない場合は、オーダーメイドのご相談もお気軽にどうぞ。
本物の革は、最初に出会った日と十年後の姿が違います。その変化を、一緒に育てていく相棒として、ぜひ手に取ってみてください。
手帖は、つづく。