革の手帖

革のブックカバー——文庫本を包んで、読書の時間ごと育てる

革のブックカバー——文庫本を包んで、読書の時間ごと育てる

夏の鞄には、たいてい一冊の文庫本が入っています。電車のなか、喫茶店で待つあいだ、宿に着いてからの寝る前のひととき。読みかけのページに指をはさんだまま、私たちはあちこちに本を連れて歩きます。

けれど、裸のまま持ち歩いた文庫本は、いつのまにか表紙の角がめくれ、背が白く擦れ、鞄の底で少し反ってしまう。読み終えるころには、ずいぶんくたびれた顔になっている——そんな経験、ありませんか。

そこに一枚、革のカバーを掛けてやる。ただそれだけで、文庫本は「消耗品」から「連れ歩く道具」に変わります。今日は、読書の時間ごと育てていく、革のブックカバーの話をさせてください。

なぜ、文庫本を革で包むのか

いちばんの理由は、やはり本を守るためです。革のカバーは、鞄のなかで本の角を守り、表紙を日焼けや擦れから遠ざけてくれます。栞ひもを一本通しておけば、ページを探す手間もいりません。読むための道具として、素直に便利なのです。

けれど、革のブックカバーの本当の面白さは、その先にあると私たちは思っています。手にした最初の日は、少し硬くて、色も浅い。それが、めくるたび、鞄に入れるたび、手の脂と体温を受けて、じわりと艶を帯びていく。数か月もすれば、角に丸みが出て、表面はしっとりと落ち着いた飴色に変わります。

本の中身が読むたびに自分のものになっていくように、革のカバーもまた、使う人の手のなかで育っていく。読書という時間そのものが、革に刻まれていくと言ってもいいかもしれません。革の育つ仕組みそのものについては、経年変化の楽しみ方でも詳しくお話ししています。

革のブックカバーから文庫本を開いた様子。読書のひととき

サイズの話——A6は、文庫本の寸法です

ブックカバーを選ぶとき、最初につまずくのがサイズです。じつは日本の本には、決まった判型がいくつもあります。文庫本はA6判(105×148mm)、新書はもう少し縦長、単行本はさらにひとまわり大きい。裸のまま「だいたいこのくらい」で選ぶと、ぶかぶかだったり、きつくて入らなかったりするのです。

ここで一つ、うれしいお知らせがあります。SpringHikerのA6サイズの本革カバーは、A6判のほぼ日手帳のために仕立てたものですが、A6はそのまま文庫本の寸法でもあります。つまり、手帳にも文庫本にも掛けられる、一枚二役のカバーなのです。手帳を使う季節には手帳に、読書の季節には文庫本に——そんなふうに使い回していただけます。

手帳カバーとしての仕立てや使い心地については、ほぼ日手帳に本革カバーをでもご紹介しています。読み比べていただくと、一枚のカバーの懐の深さが伝わるかと思います。

新書や単行本、四六判といった別のサイズを包みたいという方は、受注生産でお仕立てできます。「この文庫レーベルにぴったり」「愛読書の単行本に合わせて」といったご相談も、遠慮なくお寄せください。オーダーメイドの流れはオーダーメイド相談のページにまとめてあります。

革と色を選ぶ——読書に連れ添う一枚だから

毎日手に取り、長く連れ添うものですから、革と色は少し丁寧に選んでいただきたいところです。私たちがブックカバーによく使うのは、栃木レザーをはじめとするタンニンなめしの革。植物の渋(タンニン)でじっくりなめした革は、はじめは素直な表情でも、使い込むほどに艶と深みが増していきます。育てる楽しみが、いちばん素直に出る革です。

色に迷ったら、「いま好きな色」ではなく「一年後に好きになっていそうな色」で選ぶのがおすすめです。ナチュラルは生成りの白から飴色へ大きく育ち、キャメルは深い蜂蜜色へ、ダークブラウンは黒に近い落ち着きへと変わっていく。育ちきった姿まで見越した色の選び方は、革小物の色選びで一色ずつ解説していますので、あわせてご覧ください。

もう一つ、読書好きの方にそっとおすすめしたいのが、革のカバーと一本挿しペンケースを揃える組み合わせです。気に入った一節に線を引く。余白に思ったことを書き込む。読むだけでなく「書き込む読書」をする方には、同じ革でお道具を揃える楽しみもあります。ペンを包む革の話は革のペンケースという選択に書きました。

使い込んで飴色に育った革のブックカバーのクローズアップ。コバとステッチ

使い方と、長く付き合うためのお手入れ

革のブックカバーは、特別なことをしなくても長持ちします。いちばん大切なのは、読み終わったあとに手のひらでさっと表面をなでてやること。手の脂がほどよく革に移り、それがそのままお手入れになります。私たちが「手が育てる」と呼んでいるのは、こういう何気ない仕草のことです。

気をつけたいのは、やりすぎないこと。よかれと思ってオイルをたっぷり塗ると、かえって色ムラやべたつきの原因になります。乾きが気になってきたら、デリケートクリームをごく薄く、というくらいで十分。オイル・クリームの選び方と適量については、オイルケアの頻度と量で現場の感覚のままお話ししています。

あとは、夏場の直射日光を避けること。海やプールに持っていくときは、濡れた手で触る前に一呼吸おくこと。ほんの少し気にかけてやるだけで、革は何年も応えてくれます。名入れをしておけば、貸し借りの多い本まわりでも「これは自分の一冊」とすぐにわかる。ささやかですが、これが案外うれしいものです。名入れは名入れサービスから承っています。

あなたの一冊を、革で包む

本は、読み終えても捨てられません。何度も読み返す一冊、旅に連れていった一冊、誰かに勧められて手に取った一冊。そういう本を、育つ革で包んでおく。すると、読書の記憶がそのまま革の色艶に残っていきます。

まずは手元の文庫本に、A6の本革カバーを一枚。別のサイズや、少し凝った仕立てをご希望なら、オーダーメイド相談からお声がけください。一つずつ手縫いでお仕立てする受注生産の考え方は、受注生産という選び方に綴っています。

この夏、鞄のなかの一冊が、少しだけ特別になりますように。読み進めるほどに、あなたの手のなかで育っていく一枚を、心を込めてお仕立てします。

この一篇の栞

手帖は、つづく。

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