革の手帖

同じA6でも、使い心地は作りで決まる——手帳カバーの、寸法表に載らない話

同じA6でも、使い心地は作りで決まる——手帳カバーの、寸法表に載らない話

手帳カバーを探すとき、たいていは「A6対応」「ほぼ日手帳オリジナル対応」という表示を頼りに選びます。それで間違いではありません。寸法が合わなければ、そもそも話が始まらない。

ただ、一年使い終えた手帳を新しいものに入れ替えるとき、差として残っていたのは寸法表に載っていないところばかりでした。開きの軽さ。厚くなった手帳の受け止め方。閉じたときの収まり。どれも「A6対応」とは書かれません。

いま工房で、同じA6サイズのカバーをもう一型こしらえています。寸法は同じなのに決めることがこんなにあるのかと、手を動かしながら改めて思いました。ほぼ日手帳に革のカバーを合わせること自体は前に書いたので、今日はその決めごとの話をさせてください。

作業台に置かれた黒い革の帯と、生成りの麻糸、蜜蝋のかたまり

手帳は、書くほど膨らむ

新品の手帳と、十二月の手帳。手に持つと厚みがまるで違います。チケットの半券を貼り、写真を挟み、付箋を立てる。書き込む人ほど背が育っていきます。

だからカバーの寸法を「買った日の手帳」に合わせてしまうと、秋口にはもう閉じにくくなる。私たちがA6カバーで見ているのは、手帳を入れた状態で厚さ25mmあたりです。革そのものの寸法ではなく、手帳を収めた状態での数字として置いています。

ここでタンニンなめしの革が効いてきます。栃木レザーのような革は、使ううちに手の熱と圧で少しずつ馴染み、必要なぶんだけ広がってくれる。ですから下ろしたてが少し窮屈なくらいでちょうどよく、初日にゆるい革は一年後にはだらしなくなります。革が育つというのは色の話だけではなくて、こういう寸法の話でもあるのです。

手帳は一年で入れ替わり、カバーだけが年をまたいで残っていきます。手帳シーズンの記事でも書いたことですが、この非対称が、カバーの設計をだいたい決めてしまいます。

差し込みは、深ければいいわけではない

手帳カバーの多くは、表紙を左右のポケットに差し込んで留めます。この深さをどう取るか。ここが作り手のいちばん悩むところかもしれません。

深くすれば外れにくくなります。けれど深いぶん表紙が内側へ引っぱられて、開くときに抵抗が出る。手帳は開いて書く道具ですから、押さえていないとページが起き上がってくるカバーは、それだけで毎日少しずつ邪魔になります。机に置いて、手を離しても開いたままでいてくれること。数字にしにくいけれど、実用ではここがいちばん効きます。

そして深さは革の厚みと連動します。厚い革で深いポケットを作ると、表紙を入れるのに指でこじ開けることになる。薄く漉けば入れやすくなる代わりに、支える力は落ちる。どちらかを選ぶのではなく、差し込み口の周りだけ漉いて、外側は厚みを残す。そういう帳尻の合わせ方をします。革の厚みが使い心地をどう変えるかは、厚みと硬さの記事に詳しく書いています。

閉じ方を、どう決めるか

鞄の中で勝手に開いてほしくない。でも開くたびに手間が増えるのも困る。閉じ方の選択肢はいくつかあって、それぞれに引き換えがあります。

ゴムバンドは手軽で確実です。ただゴムは数年で伸びます。本体の革が十年使えるのに、留め具の寿命が先に来るのは惜しい。使うなら交換できる作りにしておきたいところです。

ベルトとホックで留める形は、しっかり閉まって見た目にも締まります。そのかわり金具が表に出る。机に置いたときのカチッという音、天板に当たる硬さ、鞄の中で隣のものを擦る可能性。小さなことですが、毎日のものなので毎日出てきます。

もうひとつ、フラップで包む形があります。私たちのA6カバーはこれで、フラップをバネホックで留めています。ベルトを渡すより留め具が小さく済み、フラップが上から重なるので、閉じてしまえば見えるのは革と縫い目です。そのぶん設計はごまかしが効かなくて、革の厚みとフラップの曲線、ホックを打つ位置がずれると、浮くか、きつくて閉じないかのどちらかになる。手で縫って一本ずつ締めていくサドルステッチは、こういう革の張りに頼る形と相性がいいのです。

黒・キャメル・ブラウン、三色の革が作業台に並べられている

色は、一年後の顔で選ぶ

手帳カバーは、持ちものの中でもとりわけ触る回数が多い部類です。鞄から出して開いて、書いて、閉じて戻す。それを一日に何度も繰り返す。財布より手が触れているかもしれません。

触る回数が多いということは、それだけ色の動きが早いということでもあります。黒は沈んだ艶が乗ってくる方向。キャメルは飴色へ振れて、半年もすれば別の色だと感じるはずです。ブラウンはもともとの深さに艶が重なっていく。育ちきった姿から逆算して選ぶのがいちばん外れないので、私たちのA6カバーがこの三色なのも、育ち方の幅として面白いところが出るからです。

もう一型、作っています

冒頭に書いたとおり、同じA6サイズでもう一型を準備しています。革は栃木レザーとイタリアンレザー、価格は7,000円台を予定しています。サイズが同じでも、ここまで書いてきた決めごとをひとつ動かすと、使い心地はずいぶん変わります。同じ手帳に合う形が二つあってもいい、と思っています。

それから、手帳まわりは人によって使い方の幅がとても広いところでもあります。ペンは一本で足りるのか、二本要るのか。付箋を貼りためるのか、身軽に使うのか。閉じ方も選べます。バネホックのほかに、金具を表に見せない隠し留め具のような作りもお受けできます。市販のサイズに自分を合わせるより、いま使っている手帳の実寸に合わせて作ってしまったほうが早い場合があります。そういうご相談はオーダーのページから承っていますので、手帳を手元に置いた状態でお声がけください。

新しい手帳を迎える季節です。来年の一年を預ける相手を選ぶつもりで、寸法表の先まで見てもらえたらうれしく思います。

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手帖は、つづく。

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